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前川喜平の「奇兵隊、前へ!」(その7)「地方案」は本当に地方の総意か?

 義務教育費国庫負担金を、三位一体改革の補助金削減の対象にするのは間違っている。
 平成16年8月24日に地方6団体の名前で提出された「地方案」は、義務教育費国庫負担金の全廃を求めた。この「地方案」は「地方の総意」だということになっているが、それは本当に本当だろうか。

 「地方案」の原案は、知事会の中で、岡山県知事らを中心に「三位一体改革研究会」などの場を通じて作成したものだとされている。知事会以外の5団体は、知事会が新潟で結論を出す前に、8月17日から19日にかけて、ぱたぱたとこの案を了承している。「小異を捨てて大同につく」とか「地方の結束が大事」とかいう梶原知事会長(当時岐阜県知事)の呼びかけに応えたもののように見えるが、オープンな議論の上で意見集約をした形跡は全くない。会長と一部の幹部だけで決め、上意下達で構成団体に伝えた。奇妙なのは、当の知事会が決定していない案を、どうして他の5団体が了承できるのかということだ。知事会は意思決定していなかったのだから、知事会から他の5団体に提案したはずはない。では、だれが提案したのだろう。
 平成16年8月18日・19日、新潟で開かれた知事会議で採択された案には13人の反対意見・少数意見が付記された。義務教育費の一般財源化に賛成の発言をした知事の数と反対の発言をした知事の数とはほぼ互角であり、中間派は梶原会長の強力なリーダーシップに引っ張られて賛成に回ったように見える。「義務教育費国庫負担制度を廃止すべきだ」と心の底から確信している人はいったい何人いたのだろう。片山鳥取県知事は、13人の異論を抑えて採択された義務教育費国庫負担金の廃止という「地方案」は「原罪を背負っている」と評している(7月19日中教審総会)。
 地方の意見が決して一枚岩ではないことは、さまざまな事例から明らかに分かる。
 例えば、議会からの意見書だ。地方議会は地方自治法99条に基づいて国に意見書を出すことができる。義務教育費国庫負担制度の堅持を求める市町村議会からの意見書は、平成16年度の1年間で1,364の議会から提出されている。全体の53.6%にあたる。平成17年度においても、10月25日までの約半年で1,044の議会、全体の47.2%の議会から提出されているのだ。重複を除いて通算すると、約1年半の間に全体の65%の市町村議会から国庫負担堅持の意見書が出ていることになる。これで、どうして市議会議長会と町村議会議長会が、義務教育費国庫負担制度の廃止に賛成したのか、とても不思議だ。
 市町村長の中からも、義務教育費国庫負担制度を堅持すべきだとの意見は多数表明されている。
 例えば、平成16年5月17日には、全国市長会社会文教委員会分権型教育に関する研究会の有志市長(代表 石田芳弘犬山市長、土屋正忠武蔵野市長(当時))が「義務教育費国庫負担金の取扱いに関する提言」をまとめた。この提言は次のように主張している。
「現在、政府においては、三位一体の改革の名の下に義務教育費国庫負担制度の廃止について検討が行われているが、財政状況が厳しい今日にあってこそ、必要な義務教育費を全国的に確保するのは国の責任であり、この意味において、義務教育の水準と機会均等の理念を財政的に支える義務教育費国庫負担制度は当面維持されるべきである」
 平成16年5月26日には、全国市長会関東支部が「義務教育費国庫負担金の取扱いに関する緊急決議」を採択して、同様の主張をしている。
 今年10月17・18日に千葉県内の新聞に掲載された、義務教育費国庫負担制度の堅持を求める意見広告には、千葉県内74市町村長のうち約3分の2にあたる49人が名前を連ねた。
 中教審での片山鳥取県知事の発言によれば、鳥取県内の市町村長は2人を除いてすべて義務教育費国庫負担金堅持派であるという(7月19日総会)。
 同じ中教審の義務教育特別部会で、土屋武蔵野市長(当時)は「地方6団体意見」の正統性に対し繰り返し疑問を投げかけた。
「地方6団体と言いながら、実は地方1団体しかまだ意思決定をしてないんじゃないか」(6月5日)
「地方6団体という協議機関が本当に地方自治体を代表して意思形成していくことは、どういうふうなやり方によってなされていくのかということが、今後非常に重大なことになってくるだろうと思っております。それで、正副会長会とか一部上意下達のやり方でやっていくというのは、地方自治の多様性ではなくて、中央集権的な発想になるわけです。(中略)事務局の振りつけだけでやっていればいいという時代は終わった、このように考えています」(6月18日)
「地方6団体と名乗ったって、単なる一部の指導者による意見ではないのかという疑問がぬぐい去れないと私は思います」(6月30日)
 「地方案」が「地方の総意」ではないと考えるに足る十分な根拠があると、私は思う。(つづく)
前川喜平〔(まえかわ・きへい)文部科学省初等中等教育企画課長〕


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